民事信託(後編)
「民事信託」後編について、埼玉総合法律事務所 弁護士 月岡朗先生に解説いただきます。
3.民事信託契約の特徴2
遺言と比べた民事信託の特徴やメリットがあります。
遺言は老い支度を考えるときに、将来自分が亡くなった後に、財産を誰に残そうかと決める典型的な方法です。
民事信託は、財産承継の制度ですので、将来、自分が亡くなった後に財産を誰に承継させるか決めることができ、遺言と類似した機能があります。
しかし、それだけではなく、民事信託は、二次相続対策ができるというメリットがあります。遺言では二次相続対策はできません。
「二次相続対策」とは、「自分が死んだ時に自分の家を妻に相続させる。次に、妻が死んだ時は長男ではなく次男に相続させる。」という形で、自分の死亡という第一段階の相続だけでなく、妻の死亡という第2段階の相続の財産の承継者を決めることです。
遺言では、後半の「妻が死んだ時は長男ではなく次男に相続させる。」という事を決めることはできません。民事信託では、決めることができます。
これにより、例えば、最初の受益者(受益者とは、信託により利益を受ける主体のことです。)は自分と定めておき、自分が死亡した後は妻を2番目の受益者として、妻が死亡した後は次男を3番目の受益者と定めておくことができます。
高齢者ご夫婦世帯と次男世帯が、高齢者名義の2世帯住宅に住んでいる場合等には、高齢者ご夫婦の生きている間はきちんと家に住めるようにしておき、高齢者ご夫婦がお亡くなりになった後には、次男世帯が家に住み続けられるというライフプランの設計が可能です。
3.民事信託契約の内容
民事信託契約の重要なポイントは以下の点です。民事信託を行う際には、下記の6点を決める必要があります。
①委託者 「誰が信託をするのか。
②受託者 「誰に対して信託を行うか」
③受益者 「誰のために信託を行うか」
④信託目的「何のために信託を行うのか」
⑤信託財産「何を信託するのか」
⑥信託行為「どのようにして信託を設定するのか」
例えば、以下のように民事信託契約で取り決めることが考えられます。
高齢の委託者Aが、息子の受託者Bに対して、Aの所有するアパートを信託財産として移転し、その収益を生活費として私(A)に渡してほしい。
図に示すと下記のようになります。
老い支度として、アパート管理の負担をどうするか、このままでは、将来、老人ホームにも入れないのではないかと考えることもあるかもしれません。そのような時に、民事信託を活用することで、アパート管理を息子等に任せて、いつか老人ホームで楽しく暮らすという生活も描けるのではないでしょうか。
また、妻や子供などの生活保障も視野に入れた財産承継の点でも、民事信託は有効です。妻や子供への生活が保障できれば、安心できます。老い支度として、民事信託の活用をご検討されてみてはいかがでしょうか。