相続登記
高齢者の方は持ち家率が高い傾向にありますが、土地や建物の所有者が亡くなったときに、どのような手続きが必要となるのか、よく分からない方も多いと思います。「相続登記」について日本司法書士会連合会に解説いただきます。
▶相続登記とは
「相続登記」とは、土地や建物(以下「不動産」といいます。)の所有者が亡くなったときに、その不動産の名義を亡くなった方から相続人(財産を引き継いだ方)へと変更する登記手続です。
※相続登記が行われた登記事項証明書の記載例
上記の記載例では、「令和4年5月23日に前の所有者である甲野一郎さんが亡くなり、甲野太郎さんがこの土地を相続して、新たに所有者となったこと」がわかります。
◇「登記事項証明書」
「登記事項証明書」は、以前「登記簿謄本」と言っていた資料です。“誰でも”取り寄せることができ、「いつ、どのような原因で、どこの誰がその不動産の所有者となったのか」などを確認することができます。
▼遺言の有無の確認
不動産の所有者が亡くなると、所有者としての権利は相続人に引き継がれます。
このとき、亡くなった方(以下「被相続人」といいます。)が「遺言」を作っていた場合には、原則として遺言に書かれている内容が優先されます。
例えば、「○○の土地と建物は相続人○○に相続させる」とか「すべての財産は妻に相続させる」といった内容の遺言があれば、その遺言に従って相続登記を行うことになります。
これに対し、被相続人が遺言を作っていなければ、被相続人の財産について「誰がどの財産を相続するか」を相続人の話し合いで決める必要があります。この、相続人の話し合いを「遺産分割協議」といいます。そして、遺産分割協議は、必ず「相続人全員で行う」必要があります。
◇「相続人全員で行う」とは 遺産分割協議を「相続人全員で行う」というのは、「一堂に介して」「全員集合して」という意味ではなく、「決めた内容に相続人全員が同意、承諾している必要がある。」ということです。直接会って協議や話し合いをするだけでなく、電話連絡やメールのやり取り、パソコンやスマートフォンを使った、オンライン通話でも構いません。 |
▼戸籍関係書類の取得
「相続人全員で行う」必要がありますので、遺産分割協議を行う前提として「誰が相続人なのか」を確認することは大変重要です。調査の結果「思いがけない相続人」が判明することもあるため、必ず戸籍関係書類(戸籍の記録事項証明書、戸籍謄抄本、除籍謄抄本など)に基づいて相続人を調査、特定します。
そして、調査、特定のために取り寄せた戸籍関係書類は、相続登記の申請の際に添付する資料となります。
▼遺産分割協議、「遺産分割協議書」の作成
相続人の話し合いがまとまり、遺産分割協議が成立したら、「遺産分割協議書」という書面を作り、これに相続人全員が署名押印して協議書を完成させます。押印は必ず「実印」を使い、「実印」による押印であることを確認するために、印鑑証明書を添付します。
遺産の分け方は、相続人全員が同意、承諾する限り、自由に決めることができます。まったく財産を相続しない相続人がいても構いません。
また、「長男がすべての不動産を相続する代わりに、ほかの相続人に対して金銭を支払う」といった分割方法(「代償分割」といいます。)や、「不動産を売却して金銭に換えて、その金銭を相続人全員で法定相続分に応じて分割する」といった分割方法(「換価分割」といいます。)も可能です。
▼相続登記の申請
遺産分割協議書が完成し、相続人全員の署名押印と印鑑証明書がそろったら、相続登記を申請します。申請先は、不動産の所在地を管轄する法務局(登記所)です。
相続登記の申請に必要となる資料は、概ね下記のとおりです。
※相続登記の申請に必要となる資料
▶相続登記の必要性-相続登記をしていないとどうなる?
相続登記を申請するかどうかは相続人の判断に任されています。「いつまでに申請しなければいけない」という期限もなく、申請をしないことでの罰則などもありません。(※ただし、後でご紹介するとおり、令和6年4月1日から相続登記の申請が「義務」となりますので注意が必要です。)
そのため、「そのうちやればよいと思って後回しにしてしまった」という話もよく聞きますが、相続登記をしないまま長い間放置してしまうと、様々な問題につながります。
不動産の利用、活用ができない
相続登記が済んでおらず、亡くなった方の名義のままでは、不動産を第三者に売ったり、貸したりすることが難しくなります。「誰が所有者なのか」を登記で確認することができないためです。
例えば、「そろそろ自宅で生活するのが大変になってきたので、親から相続した土地を売って、そのお金で高齢者施設に入居したい」と考えたとき、きちんと相続登記が済んでいて、土地が自分の名義になっていれば、その後の手続をスムーズに進めることができます。
ところが、相続登記を済ませておらず、「数十年前に亡くなった父親の名義のままだった」といった場合、まずは相続登記を行う必要がありますので、「買いたい」という人が現れてもすぐには売却の手続を進められません。
せっかく不動産を持っていても、活用することができないのです。
遺産分割協議が困難となり、時間や費用が掛かる
不動産の所有者が亡くなってから時間が経ってしまうと、様々な事情によって遺産分割協議をスムーズに進めるのが難しくなる場合があります。いざ相続登記を行おうと思っても、思いがけず時間や費用がかかって、負担が大きくなるのです。
◇「数次相続」により相続人が増えて、中には、面識もなく連絡先も知らない親族がいる
遺産分割協議を行う前に相続人が亡くなってしまい、さらに次の相続が発生することを「数次相続」と言います。数次相続により、「相続人の調査、確定に時間が掛かり、戸籍などを取り寄せる費用も高額になる」「相続人の意見が分かれて遺産分割協議がまとまりにくくなる」「協議を行いたいが、疎遠な親族なので連絡先が分からない」など、遺産分割協議が困難となる要素が増えるおそれがあります。
◇相続人の中に音信不通(行方不明)の人がいる
相続人が増えると、「戸籍上はまだ生存している(死亡の記載がない)が、住所地に手紙を送っても届かず、どこに住んでいるかもわからない。」という相続人が含まれることもあります。このような場合、家庭裁判所で「不在者財産管理人」の選任申立てを行い、選任された不在者財産管理人が音信不通の相続人に代わって遺産分割協議に参加することになります。その分、時間や費用が掛かり、遺産分割協議をまとめることが難しくなります。
◇相続人の中に、認知症や病気のため意思表示できない人がいる
相続人の中に「認知症が進んでしまい、意思疎通が難しい」「病気で寝たきりになってしまった」という方が含まれることは珍しくありません。その場合でも、遺産分割協議を「相続人全員で行う」というルールは変わりません。
このようなケースでは、家庭裁判所で「成年後見人」の選任申立てを行い、意思表示できない相続人に代わって成年後見人が遺産分割協議を行うことになります。この場合、原則としてその相続人の法定相続分を確保する必要があるため、柔軟な遺産分割協議が難しくなることがあります。
「所有者不明土地問題」や「空き家問題」などの原因となる
不動産登記簿を確認しても所有者がわからない土地や、所有者はわかっていてもその所在がわからず、所有者に連絡がつかない土地のことを「所有者不明土地」と呼びます。長い間、相続登記が行われずに放置された結果、相続人が数十人、場合によっては100人以上にも増えてしまうことがあり、解決が非常に難しくなります。その結果、「利用、活用ができない土地」となってしまうのです。
2011年に起きた東日本大震災の被災地域では、国や自治体が復興事業の用地として土地を取得しようとしたところ、対象土地の相続登記が行われていないため所有者が誰かわからず土地を利用できない、ということが各地で発生し、復興事業の遅れにも繋がりました。
「所有者不明土地」は全国各地で増加しており、今後もさらに増えることが予想されるため、その解決や予防が国にとっても大きな課題となっています。
また、相続登記が行われない建物は、管理責任の所在があいまいになりがちです。「空き家」となり適切な管理が行われないまま老朽化が進むと、「屋根や外壁などの落下」「建物の倒壊」などの危険性が高まるほか、「ゴミの不法投棄」「雑草の繁茂」「不審者の出入り、不審火や放火のリスク」など、近隣住民に不安を与え、地域の生活環境にも影響を及ぼします。
このように、相続登記の先延ばしは「所有者不明土地問題」や「空き家問題」の原因となります。
▶相続登記促進のための様々な施策
相続登記を促進するために、法律が改正され、新たな制度が設けられるなど、様々な取り組みが進められています。その中のいくつかをご紹介します。
相続登記の申請の義務化について ▶令和6年4月1日から
令和6年4月1日から、相続登記の申請が「義務化」されます。
少し簡略化した説明ですが、「相続により不動産を取得した相続人は、相続により所有権を取得したことを知ったときから3年以内に相続登記の申請をしなければならない」というものです。
この「相続登記の申請の義務化」に関して、大きなポイントの一つは「正当な理由がないのに相続登記をしないと、10万円以下の過料の対象となる」という罰則が設けられたことです。
ただ、「相続登記をせずに3年を過ぎたら、有無を言わさず10万円の支払いを命じられる」というわけではありません。様々な事情で、期間内に登記の申請まで行うのが難しいことも考えられますので、「正当な理由がないのに」という条件が付いています。
また、最終的に過料の罰則を与えるかどうかは裁判所が判断するのですが、その前に、法務局から相続人に対して相続登記を促す連絡が行われることになるようです。
相続登記の義務化の仕組みは、「厳しい罰則を与えて、無理やり相続登記をさせよう」というものではなく、あくまで相続人が自発的に、自ら進んで相続登記を行うことを促す制度になっている、とご理解いただければと思います。
相続登記における「登録免許税」の免税措置の拡大
相続登記を申請する際には、「登録免許税」を納付する必要があります。登録免許税の金額は、相続登記の対象となる不動産の「固定資産税評価額」の1000分の4(0.4%)で計算します。この登録免許税について、「相続登記の促進」という観点から「免税措置」が設けられ、その範囲が拡大しています。
具体的には、「不動産の価額(=固定資産税評価額)が100万円以下の土地に関する相続登記は、登録免許税が免除される」というものです。
この免税措置は、「令和7年(2025年)3月31日までの間に行われる土地の相続登記」が対象とされていますので、有効に活用していただければと思います。
なお、免税措置の適用を受けるためには、相続登記の申請書に「租税特別措置法第84条の2の3第2項により⾮課税」などと記載する必要があることに注意が必要です。
▶まとめ
相続登記はお早めに
まずお伝えしたいのは、「相続登記はお早めに」です。
相続登記をしないでいる間に、解決が難しくなる要素が増え、その分費用も余計にかかることが多くなります。これまでご紹介したとおり、相続登記を先延ばしにすることでのメリットはほとんどありません。
令和6年4月1日から「相続登記の申請の義務化」が始まります。相続登記を進めるきっかけの一つにしていただければと思います。
◇専門家の活用について 相続登記は、不動産を取得する相続人が自分で申請することもできますが、必要な戸籍などを集め、正確な内容の遺産分割協議書などを作成するためには専門的な知識が求められます。特に、数次相続が発生しているような事案ではかなり複雑な作業となることがあります。また、申請書や添付書類の内容に不備があれば、修正のため(平日の日中に)法務局まで何度も足を運ぶ必要があるなど、大きな負担となることもあります。 相続登記を円滑、正確に行うためには、登記手続の専門家である司法書士に相談、依頼なさることをお勧めします。 前記のとおり、相続登記は「不動産の所在地を管轄する法務局(登記所)」へ申請することとなりますが、全国どこの登記所に対しても、インターネット経由での「オンライン申請」を行うことができます。相続登記の対象となる不動産が遠方にある場合でも、まずはお近くの司法書士に相談してみるのが良いと思います。 全国の司法書士会では、「相続登記相談センター」を設けて無料相談や司法書士の紹介などを行っています。 |
~プロフィール~
日本司法書士会連合会は、司法書士法によって定められた団体で、「司法書士会の会員の品位を保持し、その業務の改善進歩を図るため、司法書士会及びその会員の指導及び連絡に関する事務を行い、並びに司法書士の登録に関する事務を行うことを目的(司法書士法第62条)」としています。