(ご本人からの質問)
有料老人ホームに入居予定なのだが、居室について畳をフローリングに変更したいと思っている。ホームからは、フローリングに変更した場合、退去時にフローリングを畳に戻さなくて良いと言われたのだが、入居契約書には原状回復することと明記してある。この場合、覚書を交わした方がよいのか。
≪相談者に対する苦情対応委員会のコメント≫
契約当事者同士が口頭で契約書に記載されていない特別な内容を契約時に合意することがあります。この場合、合意自体は口頭でも成立しますが、合意や内容をめぐって後日争いの原因になりますので、必ずホーム側と入居者の双方が合意した内容を書面で残すようにしてください。
書面の形式は、入居契約書の中に特約事項として追記する方法でも、別途、覚書を取り交わす方法でもいいですが、内容は原状回復義務の範囲・程度に係る紛争を未然に防止するために、例えば「居室の床の仕様を畳からフローリングに変更した場合は、退去時に原状回復する(畳に戻す)必要はありませんが、仕様変更後のフローリングはホーム側の所有になりますので、一般社会通念上の通常損耗の限度を超えるフローリングの破損・汚損を生じているようなケースにおいては、これに対する原状回復義務は発生する」というような基準を明確に記載しておく必要があるでしょう。
また、その仕様変更工事の発注内容や、前後の居室の写真も記録として保存しておくことをお勧めします。覚書を取り交わした場合は、紛失しないように、契約関係書類と一緒に保管してください。
~入居を検討している方へ~≪トラブル回避のためのチェックポイント≫
契約は口頭でも成立するという民法の原則はありますが、契約書に記載されていない事項で特別に合意したことがある場合は、後日のために、その内容を書面にしてもらい、ホームと入居者の双方が押印して保管するよう、ホーム側に依頼してください。
(参考)
民法196条
(占有者による費用の償還請求)
第百九十六条 占有者が占有物を返還する場合には、その物の保存のために支出した金額その他の必要費を回復者から償還させることができる。ただし、占有者が果実を取得したときは、通常の必要費は、占有者の負担に帰する。
2 占有者が占有物の改良のために支出した金額その他の有益費については、その価格の増加が現存する場合に限り、回復者の選択に従い、その支出した金額又は増価額を償還させることができる。ただし、悪意の占有者に対しては、裁判所は、回復者の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる。
民法522条
(契約の成立と方式)
第五百二十二条 契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。
2 契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。
民法608条
(賃借人による費用の償還請求)
第六百八条 賃借人は、賃借物について賃貸人の負担に属する必要費を支出したときは、賃貸人に対し、直ちにその償還を請求することができる。
2 賃借人が賃借物について有益費を支出したときは、賃貸人は、賃貸借の終了の時に、第百九十六条第二項の規定に従い、その償還をしなければならない。ただし、裁判所は、賃貸人の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる。
公益社団法人全国有料老人ホーム協会 有料老人ホーム標準入居契約書(6 訂版)
(明渡し時の原状回復)
第28条 入居者又は身元引受人等は、第25条第二号又は第三号により本契約が終了した場合には、直ちに居室を明け渡すこととします。また、同条第一号により本契約が終了した場合には、契約終了日から起算して30日以内に居室を明け渡すこととします。
2 入居者又は身元引受人等は、前項の明渡しの際に、通常の使用によって生じた居室の損耗、並びに居室・設備の経年変化による損耗を除き、居室を原状回復しなければなりません。
3 設置者、及び入居者又は身元引受人等は、居室の明渡し時において、契約時に特約を定めた場合は当該特約を含め、別表第(6)の規定に基づき入居者が行う原状回復の内容及び方法について協議するものとします。