1.ご家族からの相談
介護付有料老人ホームに入居している。この度、運営事業者が変更されることになった。それに伴い、特定施設入居者生活介護の人員配置が2:1以上から、2.5:1以上になるとのこと。2:1以上の手厚い人員配置だから入居したのに、それをホーム側の都合で変更するのは契約違反ではないのか。これを認めない場合は、契約終了し、退去するしかないのか。
2.押さえておきたいポイント
・このような相談は状況によってケースバイケースとなるため、詳細は以下を参照。
・ホーム側の都合で入居者の合意なく一方的に契約内容を変更するのは契約違反となり得る。ただし、その例外として不特定多数の方に対して同一の契約条件で契約を締結している事業者については,民法の定める一定条件の下、合理的な必要性に基づいて、事業者が相手方の同意無しに一方的に契約条項を変更することが許される場合がある。このケースで言えば、例えばホームの存続に関わること、その他やむを得ない事情で契約の変更が必要になる場合があり、それは若干のサービスを低下させたとしても、多くの入居者にとっては、ホーム自体を存続させた方がそれら入居者全体の利益にも合致するからである(定型約款の変更・民法第584条の4)。その際は変更に同意しない場合は、契約を終了し、退去するしかないケースがある。
・運営事業者が変更されると、新しい事業者がこれまでの契約を引き継ぐのが一般的だが、採算性その他の事情により入居契約の一部が変更されることもある。変更が生じる場合、従前の事業者と新しい事業者はそれぞれ入居者に対して期間的余裕を持って①変更の理由と必要性、②変更の具体的内容、③変更の時期見通し、④退去を選択する場合の条件等について適切に情報提供と説明を行い、同意を得ることが求められる。
・人員配置が「2:1以上」から「2.5:1以上」に変更される場合、たとえ利用料が減額されても、重要な契約内容の変更にあたるため、入居者の同意なしに一方的に変更するのは契約違反となる可能性がある。しかし、その変更内容が合理的であり入居者全体の利益に適う場合には、入居者全員の個別承諾が無くとも、一方的にこの条件を変更出来る場合があり、その場合はその変更は有効であるから、債務不履行の問題は生じない。他方、その変更が合理的な内容であったとしても、その変更が有効となるためには、事業者は契約の相手方である入居者全員に対して適切かつ十分な方法で周知を図ることが求められ、これを行わなかった契約変更は無効となるので、そのように適切な説明を欠いた場合には、原則通り債務不履行の問題を生ずることが有り得る。
・契約内容が一方的に変更されたことを理由に退去する場合、その変更が入居者全員の利益に反する不合理な内容であったり、あるいは適切な説明を欠いているような場合には、その変更は無効となるため、事業者に対して債務不履行に基づく損害賠償を請求できる可能性はあるが、賠償の範囲や請求の可否については専門家に相談する必要がある。
3.これから入居を検討する方へ
入居期間の途中でホーム運営事業者が変更となるリスクがあることを認識し、ホームの運営状況や経営の安定性を確認してください。
(参考)
・民法415条1項
・民法548条の四
・有料老人ホームの設置運営標準指導指針(2024年12月6日)