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入居あれこれ

マイホーム借り上げ制度

暮らしに役立つ情報

マイホーム借り上げ制度

 住まなくなった家を売ることなく、安定的な収入に変えることができる「マイホーム借り上げ制度」をご存じでしょうか。「マイホーム借り上げ制度」について、一般社団法人移住・住みかえ支援機構(JTI)大垣尚司代表理事に解説いただきます。

 老後の自立を支える2大要素は健康とお金です。公的マイホーム借上げ制度を運営する一般社団法人移住・住みかえ支援機構(JTI)は、2006年の設立以来、老人ホーム等に住みかえられた後のマイホームを借り上げてお金に変えるお手伝いをして参りました。

 老人ホーム等への住みかえは、それだけでも大変な作業です。このため、住まなくなる自宅を借り上げてもらうなどというところまではなかなか気が回りません。結局、誰も住まないまま、事実上空き家状態にしている方も多いのではないでしょうか。しかし、家は庶民が持つ最大の財産です。うまく活用できれば、住みかえてからのお金に大きな余裕が生まれます。一方、誰も住まないまま放置した家は想像をはるかに超えるスピードで朽ちていきます。

 そこで、すでに老人ホーム等に住みかえられた方と、これから老人ホームへの住みかえをお考えの方のために、マイホーム借上げ制度を活用してご自宅をお金に変える方法とそのための注意点を整理してみたいと思います。

マイホーム借り上げ制度

  マイホーム借上げ制度は、非営利法人であるJTIが、50歳を越えて、別の場所に住みかえた方々から、ご自宅を借り上げて主として若い方々に転貸することによって、家賃収入が得られるようにする制度です。一度入居者が決まったあとは退居時にも一定の家賃が支払われること、借上げ家賃に国の基金による債務保証がなされていること、借家人に更新権がない定期借家で運用するためその期限に契約を解約して家に戻ることができること、入居者との直接のやりとりが不要なこと等が特徴です。

対象

自分で住むために建てた家(事業目的は不可。別荘・セカンドハウスは可)。制度利用の時点で住んでいる必要はありません。戸建・マンション・タウンハウス等の別も問いません。

権利

建物については所有権を有していること。共有の場合は共有者全員の承諾が必要です。土地は借地でも構いませんが、その期限が借上げ期間の上限になります。

利用年齢

50歳以上。海外赴任、相続した家等について特例があります。

借上げ期間

利用者と配偶者等の指定同居人の両方が死亡されるまで。中途解約の場合は6か月前に通知が必要です。いずれの場合も、その時点で有効な転貸借契約の期限を待って契約を終了させ対象物件を返還いたします。

転貸借

原則として3年の定期借家契約(借家人が更新権を持たない借家契約)で運用しますが、差し支えない範囲で、できるだけ長期としたほうが高めの家賃を期待できます。

借上げ家賃

最初に入居者が決まった時点から、転貸家賃の85%(空き家保証のための控除10%と管理費5%を差し引き)が支払われます。転貸家賃の水準はあらかじめ承諾いただいた一定の範囲内でJTIが決定します。

空き家保証

転借人が退居したときは、次の入居者が決まるまでの間、退居した転借人の入居時に決めた保証家賃が支払われます。保証家賃は新たな入居者募集時と市場に著しい変動があったときに見直されます。

国の基金による債務保証 JTIの支払う借上げ家賃には、国が一般財団法人高齢者住宅財団に設定した基金によって債務保証がなされています。

借上げ契約の仲介・物件の管理

JTIに協賛する近隣の宅地建物取引業者に委託して行います。

リフォーム等

通常はご自身で長く住まれてきた家なので、畳や建具、壁紙の取替えや、水回りの修繕等、ある程度リフォームをしたほうが入居者が早く決まったり、家賃を高めに設定できたりすることがあります。ただし、それを強制することはありません。その他、設備が経年劣化で使えなくなったりしたときは、利用者の負担で修繕や取替えをする必要があります。

誰も住まない家は急速に劣化する

 自宅に住まなくなっただけで「空き家」になったとは普通は思いません。人が住まなければ、痛むこともないだろうと思う方もあるかもしれません。しかし実際には、誰も住まない家は急速に劣化が進み「空き家化」します

 たとえば、今年のように暑い夏ですと、家族が近くにいて、こまめに換気をしてくれるといった事情がないとおぞましいほどカビだらけになることがあります。庭の雑草はあっという間に生い茂り、近所で「迷惑空き家」扱いされます。家財を残したままですと空き巣の格好の的にもなります。 家は生き物です。人が住んでいるからこそ健康が保てるのです。長年住んだ愛着のある家に他人が住むことには抵抗が強いと思います。しかし、もし、家族が住んでくれるか、近くに住んでいるといった事情がないなら、むしろ他人であっても住んでもらったほうが長持ちするのです

たかが家賃、されど家賃

  そして、家を他人に貸せば家賃収入が生まれます。

 マイホーム借上げ制度で利用者が受け取る諸費控除後の手取り家賃の平均は9万円程度、地方に限れば6万円〜8万円です。少ないと思われるかもしれませんが、夫婦2人がもらえる標準的な厚生年金の金額が20万円程度であることを考えると、老後の年金生活を豊かに変える効果が十分にあります。そもそも、銀行に預けて毎月それだけの利息をもらうには、最近のゼロ金利状況だと、10億円以上のお金が必要です。株に投資すれば損をするリスクがあります。  住まなくなった家は安定的に収入が期待できる資産なのです。逆に言えば、資産だと割り切って「思い出」に固執しないことが家のためにもご自身のためにも大切です

地方なら10年間の家賃は土地代に匹敵

 ところで、住まなくなった家をお金に変える方法には、①売ってお金に変える、②担保にしてお金を借りる、③貸して家賃を得る、という3つの選択肢があります。

 売る・・・ まず、①の売るという選択肢ですが、明確なニーズがある場合を除いて、老人ホーム等への住みかえにあたり、自宅や相続した親の家を売る人は実際には多くありません。仮に売ることにした場合も、何年も住んだ中古の家はほとんど値段がつかないことが多いため、結果的に土地代と変わらない価格になってしまいます。下手をすると「古家付き戸建」ということで家の解体費用を控除した金額になることも少なくないのです。土地の値段は、地方だと、50坪〜60坪程度で1000万円〜1500万円程度のところが多いでしょうか。ご自宅についての相場を知るには、ネットに出ている周辺の売買情報のほか、全国地価マップというサイト(www.chikamap.jp)でご自宅の住所を入れて検索すると近くの公示地価(国が発表している基準となる地点の地価)や路線価がわかります。路線価は、国が相続税の計算に使うため年に一度発表しているもので、市街地であれば自宅の前の道に㎡単価が千円単位で表示されています。売値とは異なりますが、これにご自宅の敷地面積を掛けてさらに1.25倍すれば取引価格のおおよその目安がわかります。

 担保にしてお金を借りる・・・ ②については、60歳以上の方を対象に、原則として死ぬまでは金利だけを支払えばよく、死んだときに家を売って元本を一括で返済する、リバースモーゲージと呼ばれる特殊な住宅ローンが普及しています。この場合、貸主は、借主が死んでから家を売って元本を回収せねばならないため、家の価値はほぼゼロ、土地の価値もかなり保守的に評価額の5,6割程度とみて貸せる金額を決めます。つまり1000万円の土地なら500〜600万円程度しか借りられないというわけです。さらに、最も普及している住宅金融支援機構の商品(リ・バース60)の場合、資金使途が住宅の取得・修繕、高齢者施設等への入居一時金に限定されていて、生活費には使えません。

 貸す・・・ 最後に、③の貸すという選択肢ですが、マイホーム借上げ制度の手取り家賃の実績をみると、上述のように、地方の場合6万円〜8万円と決して大きな金額ではありません。しかし、空き家になっても家賃保証がなされますので、10年間貸せば700万円〜900万円超の収入になり、地域によっては土地代に匹敵する金額になります。実際に10年間続けられた方の平均の累積手取り家賃は900万円を超えているのです。

 つまり、すぐに売っても地方ですと1000万円程度のお金にならないことが少なくないが、10年貸せばこれに匹敵する家賃収入が得られる上に、所有権は残っていますので、それから売っても遅くないし、子供に相続させることもできるというわけです。 老人ホーム等に入ればお金がかかります。老いてから子供に負担をかけることは可能な限り避けたいものです。もちろん、老いれば完全に自立して生きていくことはできません。それでも、お金の負担を緩和できれば自分自身の尊厳を守ることができます。生命表という統計によると、女性の半数以上,男性の3割程度が90歳以上まで生きます。家を相続させるころには子供も60代になっているわけです。こうしてみると、相続財産を遺すことを考える前に、死ぬまでの間にお金の負担を子供たちにかけないよう、「家を財産として使い切る」ことをまず考える必要があるのではないでしょうか。

自分で貸せば大変なストレス

 ただし、家の賃貸を素人がご自身でやるのは大変です。まず、借家人に更新権がある普通借家契約で貸すと、出ていってもらうことが事実上非常に難しくなります。このため、JTIは期限に返してくれということができる定期借家契約で運用するのですが、そうなると、期限には再度入居者を募集せねばなりません。再募集にあたっては、傷んだところを直す必要があります。この場合、自然に劣化したといえる水準(経年劣化といいます)を超える損耗については入居者に原状回復費用を負担させることができますが、実際に業者を手配して直すのは自分ですし、負担額をめぐり退去者と争いになることもあります。高齢になると悪質なリフォーム業者に欺されるリスクも高まります。

 多くの不動産屋さんが手がける賃貸物件は事業用のアパートが中心です。これに対し、もともと自宅だった戸建住宅で築年数も20年を超えたものの場合、それなりに入居者のクレームが発生しますし、庭木の管理といった独特の問題も生じます。

 家を貸すということは「事業」であって預金を預けて利子をもらうのとは違います。特に、老人ホーム等に入って自分で主体的に管理を行うことが難しくなってから自宅を運用する場合には、ある程度「おまかせ」で借り上げてもらうことが必須といえるでしょう。

 実は、マイホーム借上げ制度を利用されたみなさんが一番評価してくださるのは、空き家保証もさることながら、入居者等とのトラブル等をJTIに責任をもって処理してもらえるという安心感なのです。

代理人を決めておく

 厚生労働省補助事業による全国調査によれば、90〜95歳の認知症有病率は61%、95歳以上は79.5%です。認知能力が低下すると法律的な効果を伴うあらゆることを独りでできなくなってしまいます。そして、そうなってからでは、子供であっても勝手に親の代理人にはなれず、家庭裁判所に申し立てて成年後見人を選任してもらわねばならなくなります。この場合、申入れをした本人が後見人になれるとは限りません。これに対して、自分の意思がはっきりしているときに、世話になるつもりの子供や信頼のおける人を代理人として、家や財産の管理等をまかせる旨の委任契約を結んでおけば、認知能力が低下してもその契約に基づいて、代理人が重要な処理をすることができます。これを補完する任意後見という制度や、最近は、委任より厳格な信託契約という方法で財産管理から、死んだ後の財産の分配までを委ねる仕組みも普及してきています。

 JTIでも、制度利用者について認知能力が低下した場合の対応や事前の配慮・工夫を検討してきているところです。

 欧米では、健康なうちに、認知能力が低下したあとのさまざまな対処について「自己決定」をしておくことが、個人の尊厳を守るために欠かせないという考え方が一般的になっています。人生100年時代を迎えた日本でもそうした意識を持って、健康なうちに早めの対応をしていくことが、自分だけでなく、周りの家族のためにも大切であることを、15年間借り上げの仕事に携わってひしひしと感じています。

 コロナ禍、異常気象、戦争と将来を見通すことがますます難しくなり、老後に向けた自己防衛がこれまで以上に重要な時代になりました。ご自身の幸せな老後と残された家族のためにも、マイホーム借上げ制度を活用して、子育て時代を見守ってくれた思い出深いご自宅に、今度は、お金を生む財産としてもう一働きしてもらうことをぜひご検討ください。

プロフィール

大垣 尚司

青山学院大学教授・金融技術研究所所長   一般社団法人移住・すみかえ支援機構 代表理事

東京大学卒業後、日本興業銀行、アクサ生命保険専務執行役員、日本住宅ローン社長、立命館大学大学院教授などを経て、現在、青山学院大学法学部教授。2006年に「有限責任中間法人移住・住みかえ支援機構」(現、一般社団法人 移住・住みかえ支援機構)の代表理事に就任。日本モーゲージバンカー協議会代表理事を兼務。著書に『ストラクチャードファイナンス入門』『金融と法』『49歳からのお金ー住宅・保険をキャッシュに換える』『建築女子が聞く 住まいの金融と税制』など。

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